【不動産売買のアスベスト問題】売り手側の注意点
古い倉庫や工場は、オーナー自身が知らない箇所で「アスベスト」が使われている可能性があります。いつか売却するときのため、早急に対策しておきたいところです。
この記事では、事業用不動産の売買におけるアスベストへの対処法について解説します。
そもそも「アスベスト」とは?
アスベストとは、繊維状にほぐれる鉱物の総称であり、その見た目から「石綿」とも呼ばれています。
代表的なのが「クリソタイル(白石綿)」です。ほかにも「クロシドライト(青石綿)」や「アモサイト(茶石綿)」などがあります。主な産出地はカナダや南アフリカで、かつては日本でも採掘されていました。
アスベストは熱や酸、アルカリに強くて腐りにくく、密着性があり、熱や電気を通しにくいのが強みです。さらに安価で入手できるため、1970年代を中心に建築材料として幅広く使われていました。
アスベストが特に使われている可能性が高いのは、倉庫や工場に多い鉄骨造(S造)の建物です。防火や耐火目的で柱や梁、天井に吹き付けられていたり、天井や壁、床の材料として混入されたりしています。セメントに混ぜられて、配管やジョイントに使われているケースも少なくありません。
また、機械室があれば防音のため、ボイラー室があれば防火のためにアスベストを吹き付けたり、防音材や防火材、耐火被覆材などに含まれていたりする可能性は高いでしょう。ロックウールやバーミキュライトによる吹き付け材も、定着させるためにアスベストを混ぜるのが主流でした。
そんなアスベストですが、次第に健康被害が報告されるようになります。アスベストを扱う工場の従業員や出入り業者、その家族、周辺住民が相次いで「中皮腫」を発症したからです。
中皮腫とは、内臓を覆う膜の表面にある中皮に悪性腫瘍ができる病気で、主に胸膜で発症する「胸膜中皮腫」と、腹膜で発症する「腹膜中皮腫」の2種類があります。このうち、胸膜中皮腫の原因といわれているのがアスベストの吸引です。
バラバラになったアスベストは、髪の毛の1/50くらいのとても細い繊維なので、体内に入ると常に細胞を刺激するようになります。その結果、胸膜中皮腫を発症するわけです。ほかにも、肺の中で細胞の破壊と修復を繰り返す「石綿肺」や肺がんなどを引き起こす可能性があります。
アスベストによる病気の潜伏期間は30~50年ともいわれており、重症化するまで具体的な症状が出ないのが特徴です。アスベストの中でも青石綿や茶石綿は毒性が高いといわれており、ほかのアスベストに先立って1995年から使用が禁止されました。
現在は建築基準法第28条の2により、アスベストの使用は全面的に禁止されています。しかし、規制が施行された2006年8月以前に着工した建物は、大なり小なり何らかの形で使われている可能性があります。
不動産売買においてアスベストはどう影響するのか
では、不動産売買において、建物にアスベストが使われていると、売主や買主にどのような影響があるのでしょうか。
売主に課せられる義務
事業用不動産のように第三者が利用している場合は、建物の所有者はアスベストを吸い込んで体内に入らないよう対策する必要があります。特に吹き付け材や保温材、耐熱材、耐火被覆材は、ポロポロ崩れてアスベストが飛散する恐れがあるからです。
本来なら除去するのが望ましいですが、封じ込めや囲い込みで飛散を防ぐ方法もあります。前者は、アスベストが含まれる建材に薬剤や造膜剤を散布し、後者は板などでアスベストが含まれる建材を覆う方法です。
また、第三者が利用していなくても、改修したり解体したりするときは、所有者はアスベストの飛散を防ぐために、事前にアスベストの有無の調査を行わなければいけません。
アスベストが使われていた場合は、建物全体を隔離して養生し、作業員は保護具・保護衣を身につけて除去作業を行います。最後は適切に処理して無害化した上で、ようやく改修や解体に取りかかることになります。
建物を売買する場合、前述した義務は売主から買主に移行します。
そのため、売主はアスベストが使われているか調査した結果がある場合、有無に関係なくその内容を買主に説明する義務があります(宅地建物取引業法第35条1項14号、および宅地建物取引業法施行規則第16条の4の3の4)。
説明するのは、調査した年月日、範囲、担当の機関、アスベストの有無、使われている場合はその箇所です。
売主は調査しておくことを推奨
前述したように、売主はアスベストの調査結果(記録)がある場合、買主に対して説明の義務が生じます。しかし、調査そのものは義務付けられているわけではありません。極端にいえば、記録がなければアスベストの有無に関係なく売買は可能です。
とはいえ、売主が事前にアスベスト調査を行うことは、売却において有利にはたらきます。
古い建物を売買する際、調査結果がなければ買主は不安を感じてしまいますが、きちんと調査結果の説明を行っていれば、買主からの印象は良くなります。
土地についても同じことがいえます。かつて建物があった土地では、解体時にアスベストを含んだ建材が適切に処理されず、そのまま埋まっている可能性があるからです。当然、除去するには建物よりも多くの手間が生じるため、何も知らないまま売買して、後でトラブルになった事例もあります。
こういった理由により、売主は事前のアスベスト調査がおすすめです。買主から信頼されやすくなり、スムーズな取引ができるでしょう。
アスベストの調査はどうやって行うのか?
最後に、アスベストの調査はどのように行うのか見てみましょう。
調査は専門家に依頼する
アスベストの調査を行えるのは、「特定建築物石綿含有建材調査者」の資格を有する者です。調査経験が3回以上ある主任調査員と組んで、日本アスベスト協会の審査員の協力を得ながら調査を行います。
費用は建物の種類や構造、階数、地域によって異なるため一概にはいえませんが、100平方メートルあたり1~2万円が目安です。また、自治体の中には調査やその後の除去にかかった費用を補助してくれるところがあります。
基本的に調査費用は持ち主の負担となりますが、売買において買主から調査の依頼を受けた場合は、話し合いで負担の割合を決めるのが一般的です。
事業用不動産の売買について熟知しているタープ不動産情報なら、専門の調査会社との連携をもとに、アスベストに関して的確なアドバイスや提案ができます。古い倉庫や工場のアスベストでお悩みの際は、ぜひご相談ください。
アスベスト調査の大まかな流れ
アスベストの調査を依頼したら、まずは書面調査を行います。設計図書に基づいて疑わしい箇所をチェックするので、持ち主の手元に無ければ、事前に建築業者から取り寄せておきましょう。
調査員は、着工年や使用した建材とその部位、さらにヒアリングを通して、アスベストが使われている可能性を判断します。
書面調査が終わったら、次は現地調査です。実際に建物の内部で、設計図書と照らし合わせながら整合性や相違点を確認します。基本的には目視ですが、隠ぺい部分では破壊調査、疑わしい箇所ではサンプルの採取を行わなければいけません。結果が出たら報告書を作成し、どのような対策を取るべきかアドバイスしてくれます。
なお、改装や解体を目的としない場合は、原則としてレベル1(吹き付け材など)とレベル2(断熱材や保温剤、耐火被覆材など)の建材しか調査しません。レベル3は、成形板などアスベストを含む建材が該当します。これらは破砕や損傷しない限り、アスベストが飛散する可能性は低いからです。
まとめ
アスベストは吸引すると中皮腫などの病気を発症する恐れがあるため、所有する建物に使われているのが発覚した場合は、速やかに対策しなければいけません。
売買するときは事前に調査を済ませておけば、買主の安心につながります。売却がスムーズになるので、売主にとっても調査のメリットは大きいといえるでしょう。