不動産売買の覚書ってなぜ必要?重要な理由と作成の方法

不動産の売買では、契約書のほかに「覚書(おぼえがき)」を作成して取り交わす機会があります。さらに「念書(ねんしょ)」という文書もあり、それぞれ違うものです。

この記事では、覚書はどのようなときに必要なのか、どのように作成すれば良いのか紹介します。

不動産売買の覚書とは

まずは覚書の役割や、契約書・念書との違いについて知っておきましょう。

重要事項を書き留めたもの

覚書とは、契約の当事者間で合意した重要事項を書面化したものです。作成にあたっては、双方の署名と捺印(または記名と押印)が必要になり、契約書と同じ効力をもちます。

不動産の売買では、契約書にて双方の合意内容や重要事項を記載するのが基本です。しかし、その前に取り決めたことがあったり、後から追加する事項が発生したりする場合は、その都度覚書を作成して効力をもたせます。

実際に、不動産の売買においては、契約書を作成するまでに、確認したり話し合わなければいけなかったりすることが数多くあります。例えば、隣の家との境界や接道の範囲、登記の状況、手付金の扱いなどです。これらを口約束のままにしておくと、売主と買主の間で行き違いが生じ、言った言わないのトラブルに発展します。

また、追加の合意内容や重要事項が発生するたびに、契約書を作り直して締結するのは面倒です。

こうした理由から、覚書という形で書面化したり、契約書を補足できたりするようになっています。

覚書と念書のちがい

一方、念書は相手に何かを約束するときに作成するものです。覚書と違って双方の合意ではなく、片方の意思を書面化します。そのため、覚書と違い、署名や捺印は不要です。

例えば、不動産の売買で買主が売主に特定の受渡日を希望して売主が承諾する場合、売主がその日に受け渡す旨の念書を作成します。約束どおり履行されなかったときは、買主が念書で対抗できるわけです。

ただし、署名や捺印が無いため、契約書や覚書と比べて法的な効力はありません。重要事項は契約書や覚書で書面化しておくのが無難です。

不動産売買で覚書が重要な理由

不動産の売買において覚書などの書類が重要視される理由を見ていきましょう。

取り決めをする

不動産の売買は、数百万から数千万、ときには億単位にもなる高額な取引です。そのため、売主と買主の間で認識をすり合わせて、細部まで取り決めを行う必要があります。契約書はいわば、その集合体であり、覚書は補足や追記という位置づけです。

ちなみに、民法の第522条では、一部の契約を除いて、必ずしも書面化する義務はありません。当事者同士で合意すれば、口頭での締結も可能です。

不動産の取引においても、一部の定期借地権を設定した賃貸借契約や、農地の賃貸借契約では書面を作成しなければいけませんが、売買契約についての定めはありません。

ただし、細部まで取り決めを行う契約を口頭だけで済ませてしまうと、内容を記憶するのは困難です。せっかくすり合わせたはずの認識が行き違ってしまう恐れがあります。そもそも、契約を締結したという証拠すら提示できません。

契約書や覚書という形にしておけば、いつでも取り決めた内容を確認できますし、契約を締結した証拠にもなります。

トラブルを防ぐ

不動産の売買は高額な取引となるため、契約どおりに履行されないとトラブルにつながります。例えば、約束どおりに代金が支払われない、予定どおりに受け渡しされないなどです。

書面化しておけば、約束や予定を忘れるのを防げますし、法的な効力がありますから、強制的に履行させることも可能です。

同様に、不動産の売買では責任の範囲が問題になります。例えば、受け渡し後に瑕疵が見つかった場合の対応などです。この場合も、あらかじめ責任の範囲を明確にして書面化しておけば、範囲を超える問題について責任を負う必要はありません。つまり、未然にトラブルを防げるわけです。

なお、契約書や覚書の効力を強めるには、署名と捺印が必要になります。なぜなら、民事訴訟法の第228条で、契約書や覚書などの私文書は、本人(または代理人)の署名か捺印があるときに成立したとみなされるからです。

売買者以外の覚書

不動産の売買において、売主と買主以外の第三者と取り決めが必要な場合は、やはり覚書を作成します。

例えば、土地や戸建住宅を売買するときは、あらかじめ隣の土地や住宅との境界線を決めておかないとトラブルになりかねません。

これまで曖昧にしていたなら、土地家屋調査士が地積測量図に基づいて正しい境界線を確定するのが一般的です。もし境界線をはみ出すような使い方をしていたら、撤退するなり該当する箇所を買い取るなどして、あらためて境界線を確定します。

本来であれば地積測量図がありますし、境界標を立てておけば、どこまでが自分の土地なのか一目瞭然です。しかし、調査の流れや結果、取り決めた内容について覚書を作成しておくと、後でトラブルが発生したときに、動かぬ証拠となります。事前に売主が覚書を取り交わしておけば、買主も安心して取引できるでしょう。

昔の覚書はどうするのが良いか

売主が土地や建物を購入したり、維持したりする過程で、覚書を取り交わしていた場合は、売却時に買主へ引き継ぐのが原則です。覚書には土地や建物を利用するときの重要な取り決めが記載されている可能性があります。知らないでいると、買主が損失を被るかもしれません。

もちろん、内容を見て有効性が高いものについては、買主があらためて覚書を取り交わすのが望ましいでしょう。覚書は当事者間で取り交わされるものだからです。不動産の場合、所有権が移動した時点で当事者も売主から買主へ変わります。

不動産売買の覚書を作成する方法

不動産の売買にともなう覚書は、自分で作成しても構いませんし、インターネット上にはフォーマットが豊富です。仲介業者がもっているフォーマットを利用できる場合もあります。

覚書には以下を盛り込むのが基本です。

・表題
単に「覚書」でも問題はありませんが、「〇〇についての覚書」といった表題にしておくと、すぐに内容が分かります。

・内容
誰と誰が何について覚書を取り交わすのか記載し、その下に具体的な内容を列記しましょう。

・日付
覚書を取り交わす日付です。

・当事者の情報
住所と名前(法人であれば商号と代表者名)を記入します。当事者が「甲」、相手方が「乙」として記入するのが一般的です。あらかじめパソコンで記名しておくのも可能ですが、本人の意思だと証明するのが困難になるので、直筆で署名するほうが効力はあります。

最後に捺印をして完成です。2通作成して、甲と乙の双方がそれぞれに保管します。

なお、覚書であっても内容によっては課税文書とみなされるため、収入印紙の貼付が必要です。仲介業者がいる場合は、覚書を作成したときに、いくらの収入印紙を貼付しなければいけないか聞くと良いでしょう。

タープ不動産情報は、事業用不動産を売却した実績が豊富です。事前調査やオーナー様のご希望に基づいて募集条件を決定し、紙媒体やインターネット上での募集はもちろん、購入を希望するお客様とのマッチングも行います。

さらに契約においては、専門家との連携によって、トラブルを未然に防ぐ契約書や覚書づくりが可能です。売却後もしっかりとフォローさせていただきます。

事業用不動産の売却をお考えの際は、ぜひご相談ください。

まとめ

覚書は、契約書を作成する前の取り決めや、作成後の追加事項などを書面化したものであり、契約書と同じ効力をもちます。不動産の売買においては、売主と買主だけでなく、周辺の地主や家主などの関係者と覚書を取り交わす可能性もあるでしょう。フォーマットは、インターネットからダウンロードできたり、業者が用意してくれたりします。