【生産緑地の2022年問題】土地所有者が考えておくこと

2022年は、改正生産緑地法が施行されてから30年です。生産緑地の所有者の多くは、今後どのように対処すべきか考えている最中でしょう。土地を活用して収益を得るのも選択肢のひとつです。この記事では、土地活用の例とそれぞれのメリット・デメリットについて紹介します。

生産緑地の2022年問題

まずは、生産緑地の2022年問題について、おさらいしておきましょう。

多くの生産緑地で営農義務が解除される

かつては土地が市街化区域に指定されると、宅地化を進めるのが原則でした。しかし、農業を続けたい人がいたり、自然を残してほしいという意見があったりしたため、改正された生産緑地法が1992年4月に施行されました

このとき農地は、従来どおり宅地化を進める「宅地化農地」と、農地として残す「生産緑地」に分けられました。

生産緑地として残すメリットは、固定資産税が一般農地と同じく、土地の評価ではなく収穫できる作物による収益性によって評価されるところです。また、相続税の納税猶予も適用されます。

その代わり、生産緑地は指定を受けてから30年間は、農業を営み続けなければいけません。途中の解除ができるのは、主たる農業の従事者が亡くなったときです。

しかし、改正法が施行された1992年4月に生産緑地として指定された土地は、2022年4月に農業を営む義務が解除されます。

それにより、これまで生産緑地だった土地が宅地として市場に放出され、地価が下落する可能性が出てきました。生産緑地の8割が解除されるため、2022年問題といわれています。

土地所有者はどうすべきか

2022年に営農義務が解除された際、土地の所有者が取れる選択肢は3つです。

1つ目は、「そのまま生産緑地として農業を営み続ける」です。

あらかじめ自治体から「特定生産緑地」として指定したい旨が通知されます。土地の所有者は同意することで、そのまま営農継続を行うことが可能となるでしょう。

特定生産緑地に指定された場合、買取の申し出可能な時期が10年先送りになるというデメリットがあります。

しかしその一方で、引き続き固定資産税の優遇や相続税の納税猶予は継続されるというメリットがあります。近年では農産物を販売したり、農産物を食事として提供したりするための建物を作るのが認められているため、農業以外の収益も期待できるでしょう。別の農家に貸したり、貸し農園として希望者へ区画ごとに貸したりするのも可能です。

2つ目は、「自治体に土地の買取を求める」です。

合意に至らなければ、自治体がほかの農家に買取をあっせんし、それでも3ヶ月以内に所有権が移転しなければ、誰にでも売却ができるようになるという流れです。

保有し続けても、固定資産税の優遇は解除されてしまいますし、相続税を猶予された分は納税しなければいけません。売却によって、以降の固定資産税がかからなくなり、納税分の足しにもなります。

ただし、売却後は土地から収益を得られず、翌年には売却益に対して譲渡所得税が発生する点は注意しましょう。

3つ目は、「土地活用をする」です。

先述した3ヶ月以内に所有権が移転しなかった後でも転用が可能です。固定資産税がかかり続ける上に優遇が適用されず、相続税を猶予した分も納税しなければいけませんが、うまく活用できれば安定収益を得られる上、場合によっては高収入も期待できるでしょう。

生産緑地解除後の土地活用の例

では、生産緑地の指定を解除した後で、どのように土地を活用すればいいのか、いくつかの例を見てみましょう。

借地

まずは、借地として土地だけを提供する方法です。貸している間は賃料が入ってきます。自分で建物を作るわけではないので、高額な初期費用は発生しません。少ない負担で安定した収入を得られるのがメリットです。

一方で、建物を建てて貸すのに比べると、高収入は期待できません。また、貸している間は自らの意思で転用するのも不可能です。

さらに、「普通借地権」で貸してしまうと、借主が契約の延長を希望した場合は、よほどの理由(自ら住むための土地が必要など)がない限り拒否できません。つまり、いつまでも土地が戻ってこない恐れがあります。収入が途切れる恐れはありますが、一定の期間が経過すれば返還される「定期借地権」で貸すのが無難です。

アパート・マンション

アパートやマンションを建てる場合、建築費用はかかりますが、家賃収入を得られます。戸数によっては、土地だけを貸すよりも高収入が期待できるでしょう。

さらに、固定資産税の減税措置を受けることができ、戸数×200平方メートルまでが1/6、それを超える部分も1/3になります(都市計画税はそれぞれ1/3と2/3)。一定期間、減価償却費を計上できたり、損失が出たときは他の収入と損益通算できたりするところもメリットです。

ただし、必ずしも入居者を確保できる保証はないので、周辺の環境を考慮した上でターゲットとする層を決めるなど、戦略や事業計画が必要になります。

シェアハウス

同じ賃貸住宅でもシェアハウスにすると、キッチンや浴室、トイレなどの水回りを共用にできるため、アパートやマンションと比べて建築費用を抑えられるのがメリットです。

一方で住人間のトラブルが起きることがあるため、管理を委託するとアパートやマンションよりも高額の手数料がかかります。また、住人が入れ替わりやすいのもデメリットです。そのため、収入や安定度はアパートやマンションと比べて見劣りするかもしれません。

人気の中心は若い世代ですが、中高年層を対象にしたシェアハウスもあります。

福祉施設

今後の高齢化社会を見越して、老人ホームやサービス付き高齢者住宅(サ高住)、グループホームといった福祉施設を作るのも、安定収益を期待できる土地活用のひとつだといえるでしょう。こういった施設は郊外に作られる場合が多いため、立地が良くなくてもうまくいくケースがあります。

土地と建物のオーナーとして事業者に借り上げてもらうのであれば、運営には関与せず、収入は賃料だけです。一方で、運営まで行うと、利用料に介護保険が適用された場合、残りの9割(または8割)を国から受け取れます。さらにサ高住では、建築費の1/10が補助されたり、税制面で優遇されたりするなどメリットが豊富です。

一方、建築にあたっては基準を満たさなければいけないため、アパートやマンションよりも初期費用は高くなります。万が一、運営が頓挫したときに転用が難しいのもリスクです。

コインランドリー

コインランドリーは、設備を導入するための初期費用こそ高額ですが、維持費が少なく現地に常駐しなくてもよいことから、比較的はじめやすい土地活用だといえるでしょう。

運営にあたっては、いかにリピーターを確保して定着させるか課題になります。郊外なら駐車場は必須です。

駐車場

駐車場は、ほかの方法に比べて初期費用が少なく、月極駐車場であれば、コインパーキングのような設備も不要です。その代わり、収益もほかの方法よりは少なくなります。

コインパーキングの場合は、単に土地を貸すだけよりも、自ら運営して管理だけ委託する方法もおすすめです。設備を導入する費用はかかりますが、収益はより大きくなるでしょう。

また、より利益を追求するのであれば、駐車場内に店舗やトランクルーム(倉庫)を建てるという選択肢もあります。事業がうまくいけば、駐車場とテナントの両方から利益を得ることができるでしょう。

トランクルーム(倉庫)

トランクルームは、敷地内にコンテナを設置して、荷物を保管してもらうサービスです。近年、めったに使わないものを保管するスペースとして需要が高まっています。ただし、コンテナを設置するだけでも、事前に建築確認申請が必要です。

こちらも、単に土地を貸すだけよりも、自ら運営して管理を委託すると多くの収益が期待できるでしょう。

このように、生産緑地を転用する方法は数多くありますが、福祉施設やトランクルームなど、自治体の都市計画によっては、建設できないものがあります。また、思ったより初期費用がかかったり、収益が見込めなかったりして経営難に陥る可能性もゼロではありません。土地活用にあたっては、事前の入念なリサーチが重要です。

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まとめ

生産緑地の指定を解除すると、固定資産税の優遇や相続税の納税猶予が適用されなくなります。しかし、土地活用をうまく行うことができれば、これらの対策になるだけでなく、場合によっては営農よりも安定かつ高収入を期待することもできるでしょう。